仕事の出来る悪役令嬢、薄幸王子様を幸せにアップグレードしておきました。

26 交渉成立

 私たちはこれまで固く閉ざされていた鉄扉を抜けて、奥の部屋へと通された。

 オブライエン家のアジトは、私がなんとなく頭で想像していたよりも、かなり広い空間だった。部屋に至るまでの通路も長いし、何個も曲がり角があった。

 私は記憶力がそこまで悪い方でもないけれど、初見であの道筋を覚えられる人は、なかなか少ないかもしれない。

 だから、ここに住んで居れば、どんなに騎士団などが人数を揃えたとしても、土地勘のある彼らが捕らえられる可能性は低い。

 それに地下街になんて、大人数揃えて侵入しても、すぐに勘付かれてしまう。裏稼業の住人たちが、協力し合えればもっとだろう。

 だから、彼らは『暗殺一家』として有名なのに、アジトだと堂々と公表して地下街に住んでいるという訳なのね。

 ふかふかのソファが並ぶ応接室へと座り、向かいには私たちと交渉するためのオブライエン一家側代表として、一人残ったフランツが座った。

「……実は、俺たち、オブライエン一家は、暗殺者を引退したいんです。それは、先代の祖父が先日亡くなってから、家族で話し合って……代々続く稼業だからと、別に続けなくて良いではないかという、話になっていて」

 神妙な表情のフランツから想像つきもしなかった、とんでもない事を切り出された。

「え。オブライエン一家が……暗殺稼業を、引退したいと考えているのか……?」

 ウィリアムはポカンとした表情で驚き、私の顔を嬉しそうに見たけれど……もしそうならば、彼らには渡りに船のはずの、私たちの護衛の依頼を受けていない理由がわからない。

 もしかしたら……彼らには私たちの知らない、何かあるということなのかしら。

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