【短編】A pipe dream 〜ソレデモオモイエガク〜
思い描く夢
「綾瀬ー」
「はいっ、部長」
昼の休憩時間も終わり慌ただしく仕事をしている中、一息つく暇もなく慌てて部長の元へと行った。
「決まったか?」
「何個か候補があるんですけど」
自分のデスクに戻り、パソコンに入れていたデータを取り出した。
そのデータの入ったCD−ROMを手渡すと、部長は早速確認を始めた。
マウスをクリックする音を聞きながら、私は遠目に窓の外の雨模様を眺めていた。
今日は一日中このフレーズに悩まされたな……。
本当に使いたいフレーズもダメ元で挙げてはみたんだけど。
私はカーディガンのポケットにそっと手を入れて、中のものに触れた。
あの彼。
カイロをくれた爽やかな彼のおかげで、あの後何個か思いついたんだよね。
今度のCMのコンセプト
“温もり”
あの時、感じられたんだ。
「よし、じゃあこれを回すぞ」
「本当ですか!」
「ああ、よく頑張ったな。この調子で頑張ってくれ」
部長は軽く肩を叩き、企画室を出て行った。
「はぁ。よかったー」
その場に取り残された私はホッと胸を撫で下ろした。