奏でない音を

「これ。落とした」


差し出されたのはカッターナイフ。


現在移動教室前の昼休み。

次の美術で使うやつを、どういうわけか落としてたみたいだ。


けど、よりによってカッターナイフ。なんて物騒な。


「あ、ありがと」


ぎこちなくお礼を口にしたあたしにじゃ、っと軽く手をあげて、教室に帰る彼に向かって、

「待って!」

とあたしは引き止めた。


「何?」


怪訝そうな表情の彼に、あたしは言葉を詰まらせる。

どうしよう、つい勢いで呼び止めたけど、言うことは何も考えてなかった。


「えっと……」


そんなあたしの様子を見て、彼はふっと笑顔を見せた。


「篠原さんって、面白い」

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