奏でない音を
「え? 名前……」
思いがけなくって、何だか間の抜けた声で訊いてしまった。
彼はあぁ、と、
「春香と部活一緒だろ? だから」
知ってた、って、そう言った。
「そっか」
名前を知っててくれたのは、嬉しいことのはずなのに、あの子のおかげだと思うと、どうも気持ちはフクザツだ。
「で篠原さん、おれに用事、あったんじゃないの?」
……あ、そうだったっけ。
呼び止めたのは、用事があったからだと思われたみたいだ。
だけど用事なんかない。
でもせっかく、話せたのに。これきりなんて嫌。
何と言おうか迷った挙げ句、
「用事、忘れちゃったみたい。
……あの、友だちになってくれない?」
何かめちゃくちゃな気もするが、これが精一杯だった。