奏でない音を

「やっぱ篠原さん面白い」

「いやあの、用事も思い出したら言いたいし……」


彼はいいよ、と言ってくれた。

昨日まで遠いひとだった安藤くんが、今日から友だちだ、なんて。

何だか不思議な気分だった。


ちょうどよくチャイムが鳴って、あたしたちは別れた。

じゃあね、ではなく、またね。

不思議な気分は消えないまま。


「美優、遅ーい! 何やってたの?」

「あ、杏里ー、あの、ね、安藤くんと友だちになった」

「な、何だそれ!」


美術室にはもうみんないて。

名前の順の、座席が隣の杏里に話すと、

「告白に一歩近づいたなっ」

と嬉しそうに、妖しく笑った。

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