奏でない音を
廊下はしぃんと静まっている。
まだ授業中だし、当たり前か。
その静けさを壊さないように、あたしはそっと、保健室の戸を開けた。
「失礼しまーす……」
保健室の先生に絆創膏をもらって、水道で血を洗い流した傷口に貼り付ける。
「深く切ったね、何したの?」
訊かれて、
「美術でちょっと……」
曖昧に笑って誤魔化した。
「そう、美優ちゃんって器用そうなのにね」
……意外そうに言われても。
そうしておしゃべりしていたら、授業終わりのチャイムが鳴った。
ばたばたとあちこちから音がする。
掃除が終われば、もう放課後だ。
「あ、春香ちゃん、起きた?」
しゃ、とカーテンが開いて、ベッドで休んでいた子が姿を見せた。
……あの子だ。
明らかに顔色が悪い。