奏でない音を
その後ろ姿を見送りながら、やっぱりお似合いだなって思う。
……あたしなんか、入る余地もないくらい。
ときどきふらつくあの子の身体を、いたわるように、彼が抱き寄せ。
夕陽に照らされカップルにしか見えないふたりを、あたしはただ見つめるしかなかった。
あの子になれたら、なんて、しょうもないことを思う。
あぁ最低だ、あたし。あの子は体調悪いのに。何妬いてるんだ。
だけどやっぱり、羨ましくもあった。
……翌日、教室に入った途端。
「おはよう美優! 昨日どうだった!?」
杏里に訊かれ、あたしは苦笑した。
「何もないよ」
明らかにがっかりした表情の杏里。
それに追い討ちをかけるように、
「てかふたりきりじゃなかったし。……春香ちゃんが体調悪そうだったから、送ってた」
そう言うと、驚いたように杏里は目を見開いた。