奏でない音を
「杏里もお疲れっ」
あたしと光樹は部活、杏里は生徒会の方の片付けも終わり、昇降口で合流した。
帰ろうとして、目に入る影。
安藤くん。
校門に寄りかかり、きっとあの子を待っている。
……ほら、やっぱり。
昇降口を出てきたあの子が、彼の方へと駆け寄った。
「……光樹、杏里、ちょっと待ってて」
あたしはそう言い、彼らに近づく。
帰ろうとする、ふたりを呼び止める。
「あのっ」
「あ、篠原さん。なに?」
「あ、えっと……、春香ちゃん、ちょっと安藤くん借りていい?」
足ががくがくする。だけど、逃げない。頑張れあたし。
「……? いいですよー」
あの子にお礼を言ってから、声が届かないところまで、安藤くんを連れてきた。