奏でない音を


悲しいはずなのに、なぜか涙は出なかった。

むしろけじめがついたみたいで、どこかすっきりしている自分がいる。


いいんだ、伝えたかっただけだから。


もともと叶わないってわかってた。

話すことさえできないと思ってた。


だけど気づいたから。

奏でない音が聴けないように、
言わない言葉は届かないって。


友だちでもいい。

今はそばに居られるだけで幸せ。


そうしていれば、いつかもっと、好きで堪らなくなる日も来るかもしれないけれど。

そのときは、また。

好きって言うよ。


ゆっくり昇降口に戻る。

光樹たちは、まだ待っていてくれていた。

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