奏でない音を
練習台を片付けて、あたしはメトロノームに手を伸ばす。
かち、かち、……
……あ、止まった。
電子メトロノームじゃないから、放っとくと止まってしまう。また動かすには横のネジをまかなきゃならない。
音楽室を刻むのは、かすかに聞こえる時計の音だけ。
あたしはメトロノームをそのままに、スティックと楽譜を両手に持って、ドラムの椅子にそっと座った。
楽譜を置いて、慣れない動きに奮闘する。
なんとなくそれっぽいリズムが、ゆっくり音楽室を包む。
ドラムの位置は、外が見えない。
それもあって、いつしかあたしはただひたすらに、ドラムに夢中になっていた。