奏でない音を

「……美優ー、聞こえてるー?」

「聞こえてない」


「聞こえてんじゃん!」


ふと顔をあげると目の前に部長の姿があって、あたしは思わず飛び退いた。

「ちょっ、美優!」


慌てたような、部長の声に、あたしは曖昧に微笑む。

「ごめんごめん、驚いたの。で、なに?」

「なにってもう時間! 挨拶するよー」


……いつの間に。


あたしが時計に目をやると同時に、部活動終了時刻になりました、と放送が流れる。

慌てて姿勢を正すとまるで、それを合図にしたかのように、

「ごくろうさまでしたー」

と部長がそう言って、みんな挨拶しながらばたばた、音楽室を出ていった。

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