奏でない音を
「美優! 帰ろ」
光樹と並んで校舎を出る。
空はほんのり薄暗い。
翌日練習のある金曜日は片付けがないから、いつもより少しだけ早い。
そのせいで、見たくないものが目に入る。
あたしの足は、ぴたりと止まった。
「リュウーッ、お疲れっ」
「は? 何でいんだよ」
「何でってー、今日部活早く終わったの! 一緒に帰ろー?」
「何でだよ……」
嫌そうな口振りでも、あの子に向ける視線は優しいんだ。
……見てるだけで幸せなんて、嘘。
ほんとはあの子みたいに隣で、一言でもいい、話したい。
だけど臆病なあたしは、遠くから見ていられればいい、なんて、強がるふりして接することさえ避けていた。
安藤龍二。
きっと彼は、同学年とはいえクラスも違う、あたしの存在すらも知らないだろう。