奏でない音を
なおも甘い声のする、ふたりの方を見ないようにして、あたしは校門を出た。
「何なの、もう。やーな感じ」
すれ違いざま、光樹が呟く。
「ちょ、光樹。聞こえちゃうよ」
あたしが小声で言うと、光樹ははいはい、と肩をすくめた。
光樹はあの子のようなタイプを嫌う。ぶりっこっぽくて嫌、らしい。
あたしは、素直でうらやましいって思うけど。
ちなみにあの子は、あたしたちと同じ吹奏楽部のクラリネットパート1年生つまりは後輩で、谷野春香ちゃん。
噂じゃ安藤くんの幼なじみで、だからあんなに仲がいい、らしい。
……幼なじみだから?
それでもあたしだったらあんなに積極的にはなれない。
やっぱりかなわないと思う。