桃色
「いなくなるつもりだったんでしょ?」

「何がだよ〜?」

ごまかそうとしたって無駄なんだから。


「全部、千絵となつから聞いたよ。タケルがいきなりいなくなったら私、すごく悲しいよ」

私は、耐え切れず言ってしまった。


「・・・聞いたんか」

「いきなりいなくならないでよ。私にとってタケルはすごく大切な人なんだから・・・。タケルの代わりなんていないんだよ!!」

私は正直な気持ちをぶつけた。

すると、タケルも正直な気持ちを話してくれた。


「俺な、もうすぐ結婚するんや。相手の女のことなんて、好きじゃない。だけどな、仕方ないんや・・・」

仕方ないって、何よ・・・。

「だから、最後にもう一回、桃子に会いたくてな。健二、通して千絵ちゃんに番号聞いて電話かけたんや・・・」

「タケル、好きじゃない人と結婚するの?それって、私がやってたことと一緒じゃん!って、もっとダメなことじゃん!!結婚ってそんな簡単なことじゃないよね?」

私は、興奮気味にそう言った。

気持ちを抑えられなかったんだ。


「だから、桃子の気持ちすげぇ分かるから、助けてやりたかった・・・。でも、俺は仕方ねぇんだよ」

「仕方ないって何がよ!?」

「俺は昔からずっと姉貴と比べられてきて、やっとここまで来たんだよ」

奈々さんのこと・・・。

「姉貴は外見あんななのにすげぇ頭よくて、それなのに俺は外見も中身も一緒でさ。だから、やっと自分で掴んだこの仕事ずっと続けてぇんだよ。もし、ここでこの結婚話断ったら、今までの俺の苦労は水の泡なんだよ」

そう言うタケルはすごく悲しそうだった。


タケルの悲痛な叫びが届いた。


タケルの苦しみが少しだけど、私にも分かった。



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