桃色
「俺は、ずっと親父に認めてもらいたかった。本気で頑張ってあの会社に入った。見合いなんてしたくなかったけど、結婚することでこのまま会社に残れるんだったら仕方ないって思った。そう、自分に言い聞かせてたんだよな」

「・・・うん」

「でも、桃子に言われてよく考えた。これからのこと、本気で考えた。それで、見合いの話、断った。辞表も出した」

「えっ・・・?」

びっくりした。辞表を出したなんて・・・。

「でもな、俺の辞表、受理されんかった。見合い断ったぐらいでクビにはしねぇって。なんだよそれって思ったよ。俺、あんなに悩んでたのに・・・」

うん。知ってるよ。

タケルはすごく悩んでたよね。


「俺、正直に話した。ここを離れるつもりで辞表書いたこと話したんだ」

「うん・・・」

「そしたら、東京へ行けって言われた。3年やるから、力着けて帰って来いって」

そんなことがあったなんて・・・。

「俺、そう言われてちょっと考えたけど、ちょうどいいって思ったんや。自分が成長する為のいい機会だって思った。ケリつけんといかんこともあったしな。それで、東京に行く決心した」

「そうだったんだ・・・」


そんな想いがあったなんて・・・。

私はそれ以上、何も言えなかった。


「俺、東京に行くこと、桃子に伝えようと思った。でも、やめたんや」

「どうして?」

「またお前に会ったら俺はお前から離れられなくなるって思ったからやめた」


タケルはそう言って笑った。



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