平安物語【完】
―姫宮は、まだお帰りにならないのかしら…
内心そわそわとしているうちに、もう日が暮れる時刻となりました。
「姫様。
今宵、姫宮様は昭陽舎にお泊まりになるそうです。」
乳母が私に近寄って来て、そっと言いました。
「まぁ…
残念だわ。」
―お人形も姫宮の御元へ参りたかったでしょうに。
待ちぼうけだったようね…
落胆を隠せずにいると、
「それで、今宵は梅壺の御息所様が御寝所に侍られるようなのですが…その参上なさる時に、お人形を託されてはいかがでしょう。」
私を不憫に思ったのか、いつも噂になりかねない事は極力避けようとする乳母がそう申しました。