平安物語【完】
「東宮様のおなりにございます!」
と女房が告げる声と同時に、尚仁様が部屋に入って来られました。
一応私は几帳を引き寄せて姿を隠します。
すると尚仁様は、そっとにじり寄っていらして几帳をどかしてしまわれました。
「私から隠れるなんて、酷いですね。」
と笑いながら仰る様は、昨夜とは違って普段通りです。
「あまりに急なお渡りで、見苦しゅうございますので。」
とチクリと皮肉を申し上げて東宮様を横目で見ると、ははと苦笑していらっしゃいます。