平安物語【完】
「月には、月読男とか桂男とかがいると言いますが…私の女御を見られているかと思うと妬けますね。」
そう仰って私をのぞき込まれるので、つい恥ずかしくて
「あかねさす 君と眺むる月影も 移ろひ止まぬ浮き世なりけり
(今あなた様と眺めているこの月の光も、明日には欠けてしまうこの世ですもの。そんな事を仰るあなた様のお心だって、いつ欠けてしまうか分かりませんわ。)」
と、つい可愛くない歌をお詠みしたところ、尚仁様はむっとなさって
「我照らす月の桂のあかきこと 恋の心の燃える為かな
(私を照らしている月があんなに明るいのは、私の恋が燃えて月に生えているという桂の樹に燃え移ったからだろうし、あの清らかな光が私の心の誠を示してくれているのですよ。)
分かっているくせに。」
と詠まれてそっぽを向いてしまわれました。