平安物語【完】
その日は、例によって尚仁様のお召しを受けて参上し、明け方近くに弘徽殿へ帰ってきていました。
眠たくて、脇息に寄りかかってうとうとしていました。
その時、
「姫様…」
と小声で呼び掛ける乳母の声が聞こえて、うっすらと目を開いて見ると、乳母が青い顔に涙を浮かべて座っています。
ただ事ではないと思い居住まいを正して「どうしたのです?」と訊きますと、乳母が微かに震える唇を開きました。
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