平安物語【完】



「…」

私は無言でした。

言葉どころか、思考が飛びました。

漏れ聞いた女房が涙を浮かべているのが目の端に映ります。

目の前の乳母の目に浮かぶ涙がだんだん増えて、ついに頬を伝いました。


先ほどの女房が話したのか、興奮した女房の話し声やすすり泣く声が聞こえてきました。


―そういえば、乳母は宮様の事を麗景殿女御様とお呼びするのだったわ。

宮様だなんて、まるで中宮にでもなられたかのようで縁起が悪いとか言って…。


思考が蘇った私の最初に考えた事は、そんな事でした。



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