平安物語【完】
胸が高鳴るのを隠しながらお手紙を開くと、まず紙にたきしめられた甘い香が広がり、次にさらさらと流れるようにお綺麗な東宮様の字が見えました。
『私が寝ている間に帰ってしまわれて、何とも寂しい想いをしました
夫婦とは思えぬ冷たい仕打ちをなさるのですね
悲しくも 疾く帰りける妹の背を 戻り来なむと 見送りけるよ
(本当に悲しいことに、すぐに帰ってしまったあなたの背中を、戻って来て欲しいと見送ったのですよ。)
どうか今夜は、日が沈んだらすぐにおいでください。』
隣では乳母が見たさそうにしていますが、こんなに幸せなもの、もったいなくて見せられませんわ。
たとえ社交辞令でも、このように仰って頂けるなんて…