平安物語【完】
ふうと大きなため息をつかれて、
「兄宮が仏道に入りました。」
と仰いました。
私がうなだれておりますと、尚仁様は私の手を優しく包んでくださって、話し始めました。
「兄の出家は…実は、ひと月以上前から聞いていました。
本当は麗景殿の入内が済んで落ち着き次第の予定だったのですが、いざという時に宮が懐妊して、さすがに捨てても行けず留まったそうです。
しかし宮の出産が無事済み母子共に健やかな今、ついに念願の出家を果たしたのです。
宮は、『せめてこの姫の袴着が済むまで…』と泣いて引き止めたそうですが、そしたら次は裳着、次は結婚と先延ばしになるのが目に見えていたため、何とかなだめて別れたのだとか。
兄が屋敷を出たのは、昨夜遅くです。
屋敷の者や親しい方々にだけ密かに別れを告げて、こっそりと山の寺へ入りました。
もう、その寺で髪を剃り上げたことでしょう…」