平安物語【完】
父・右大臣は、それはもうこの事を喜んでおりました。
左大臣家の姫君の入内が取りやめになれば、私が東宮様のご寵愛を受ける可能性が高まることになるのですから…
父上は、
「あなたの亡き母上がお守りくださったのだろう。
母上は、あなたの行く末を大層案じておられたから…。」
と言っておりました。
父上の北の方(貴人の正妻の敬称)であった私の母は、私が五歳の時に亡くなりました。
父上はその後、あちらこちらに通い所はあっても、新たな北の方を迎えることなく、今日まで私を慈しんで守り育ててくださいました。
私は、そんな父上を敬愛しております。
父上の為、必ずや東宮様のご寵愛を頂戴してみせます。