平安物語【完】
『橘の色香を愛づる友もがな
昔の人の袖を忘れで
(橘の花の色や香を、共に愛でる友が欲しいものです。
あなたが昔抱きしめてくれた、あの袖を忘れてはいませんよ。)
お会いしたい気持ちをこらえられません。
今日明日にも、ご都合の良い日に、どうかおいてください。』
突然のお招きに驚いて乳母に相談すると、
「世間ではお二人の仲をあれこれ噂しておりますし、不都合も無いのにお断りしては、不快に存じ上げているのだと思われてしまいかねません。
やはり今日にでも。」
と言うので、今日の午後にお伺いするとの返事を差し上げてしまいました。