蟀谷にピストル
「ツレないですね。助けに来てあげたのに。」
ぷうと頬を膨らませる不審者。それを怪訝に思いつつ、私は口を開く。
「私をさらって身の代金をよこせって言うのは無駄ですよ。」
「君はわかっていませんね…」
何がよ。私は心の中で悪態をつく。馬鹿にしたような、困ったような声に苛立ちが募る。
「…まあいいんですよ、堅い蕾の方がオトシがいがあるものです。」
その言葉に私は眉間に皺を寄せる。
「何が言いたいんですか?」
「言わせる気ですか?」
「貴方の言っている意味が分からない。」
「愛しているんですよ。」
「誰を」
「貴女を」
顔に血が上って行くのがわかる。
なんと恥ずかしいことをサラリと言ってのけた。
ああ、嫌だこのおとこ。
「わたしは、貴方を知らない。」
声が震える。ああ格好悪い。
「いいんですよ、僕は君を愛している。それが事実です。」
一目惚れをご存知ありませんか?
男は優しく笑った。
確実に私は男にオチた。
"「いっしよににげてはみませんか?」"
(僕らの愛の巣へと)