蟀谷にピストル

紫煙




彼は私の隣でタバコを吸ってる。

彼と私がキスするより多く彼はタバコに口を寄せる。

ソレが悔しくて、私もタバコに手を出した。だけど彼は伸ばした手を払いのけて「お前、未成年。」と言った。

私よりタバコが好きな彼。

タバコが好きな彼を愛している私。

切ない。

タバコは彼の肺に張り付いて離れない。彼のスーツからはタバコの香り。

タバコ、タバコ、タバコ。タバコはいいな。彼に好きって言ってもらえて。

ああ、タバコにまで嫉妬するなんて末期だなあ。


「タバコと私、どっちが好きですか?」

「タバコ」

じーんと目の奥が熱くなる。ああ、やばい泣きそう。

「愛してるのはお前。」

目線を逸らしていく彼、顔は見えないけど、きっと顔は真っ赤。だって、少し見える耳が赤い。

そうすると、すっごく嬉しくて、泣きそうになった。
背を向けた彼にぎゅう、っと抱きつく。

「私も、あなたを愛しています。」


"しえん"

(彼のタバコさえ愛おしくなった。ほんとに末期だ。)
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