蟀谷にピストル

まるで、そう





昨日までは、背中まであった髪の毛。それを切り落とすと、彼女はいった。

「馬鹿ね、あいつのために髪なんか伸ばすから。

こんなにつらいのよ。

本当に、馬鹿」

それだけ言うと、彼女は私の頭に手を乗せて、短くなった髪の毛をぐしゃぐしゃと撫で回した。

「……ふぅ、っう」

目頭が熱くなる。口から漏れた音に、彼女が気づいて優しく撫でてくれた。

「、…っあ、のね、っあの。」

「うん?」

「あの…ひと、っ、もう。あたしがね。」

要らないんだって。

私がそう言うと。

言うと背中を撫でてくれた。


その優しさに甘えた私は、頭が痛くなるまで彼女の胸を借りた。


"まるで、そう"

(お母さんみたいに)
< 63 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop