蟀谷にピストル

契り




ねぇ、

という彼女の声で意識を黒板から彼女に向ける。

今の授業は理科。
先生は、初めは天体の話をしていたのに、どんどん話がそれて、生物の生まれたことは偶然が重なったものだ、とか言ってる。とうとう黒板に図を書き出して説明を始めた。(ビッグバンから今の人間になって…)


「なに?」

「さっき先生、人間は偶然で生まれたって言ってたけど。アンタ、どうおもう?」

普段はあまり喋らない彼女の声を聞いて、声、アルトなんだ。とか思った。

反応を示さない俺に、ねぇ!と。返事を要求してきた。


「…さぁ。やっぱり、偶然?」

ふうん、と言った彼女は、黒板に目を向けた。



聞いといてそれかよ、と腹の中で思った。


「じゃあさ、この世界にアンタが生まれて、アタシと話してんのも、偶然だ。」

黒板に目を向けたまま話す彼女。


「じゃあ、生物に始めに約束される物って何?」

彼女は意地悪く笑う。(それは、綺麗だった)

「…分かんない。

じゃあ、お前はどう思ってんの?」



彼女は、すごく綺麗に笑って、(意地悪くなかった)

「"死"よ」


し、が、死になるまで使った時間に、彼女は、立ち上がって、教室の扉を開けた。
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