【短編】恋は月夜に舞い降りる【砂糖菓子より甘い恋-
二 深窓の姫君
――ここは都の端にある、陰陽師 安倍龍星(あべのりゅうせい)の屋敷。

夜の帳が下りた中庭を眺めながら、同居人であり左大臣家の姫でもある藤崎毬(ふじさきのまり)が口を開く。

「ねぇ、龍。
今夜も昨日みたいな綺麗なお月様出ないの?」

夜空を見上げた毬は、不満げに唇を尖らせている。
それは、昨日の幻想的な月明かりで満ちた空とは違い、ただひたすらにこの世の果てを思わせるほどの漆黒で埋め尽くされていた。

「今日は雲が沢山出て、月も星も覆い隠しているんだよ」

龍星の説明にも納得がいかないようで、つまんないのと呟いている。

「月はまた出るのですから、そう機嫌を損ねないで」

龍星は愛しい姫の頬にそっと手を伸ばし、その黒髪を撫でる。
そうするとこの我侭なお姫様の機嫌は、喉をなでられた猫のように直るのだ。


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