【短編】恋は月夜に舞い降りる【砂糖菓子より甘い恋-
毬は仕方なく、一人で笛の練習をする。
龍星は咎めることも教えることもなく、その近くで書物を読むことに没頭していた。

雅之が龍星の家にやってきたのは、それから一刻も過ぎた頃であった。

「雅之、夕食は?」

慌てた様子の雅之に、龍星が声を掛ける。

「何かもらえたら助かる」

雅之は疲れた声でそう答える。毬は慌てた顔で、雅之を覗き込んだ。


「ごめんなさい。もしかしたら病で伏せてたの?」

そうとしか思えないほど、雅之の顔には疲労が滲んでいた。
しかし、そう問われた雅之は、美丈夫といって過不足無い顔に、にこりと人好きのする笑顔を浮かべる。

「いや、病などではないよ。
悪かったね、心配させて。毬が練習不足だなんて俺は一度も思ってないよ」

そう言って、まずは毬をほっとさせてやるところが、この男の良いところなのだ。
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