【短編】恋は月夜に舞い降りる【砂糖菓子より甘い恋-
仕方なく、雅之は龍星と毬に引きずられるように昨夜笛を奏でていた場所へと向かう。

毬は牛車に残るように命じられ、不服そうにそこに残った。

月の光に包まれて幻想的に見えていた河原も、今日はただの暗闇でしかない。
各々が手に持つ松明(たいまつ)だけが、ぼうとそこらあたりを照らすに過ぎない。

「もっと道沿いのほうではなく、本当にこんな真ん中なのか?」

辺りには河しかない。
もっと道沿いであればそっと牛車が止まっていてそこから姫が声を掛けてきたとも考えられるのだが……。

「龍ー!!私もそっちに行くー!!」

牛車から毬の叫び声が、小さく聞こえる。

「あんな感じだった?」

龍星が問う。

「いや……。あんなに大声を出している感じではなかったな、決して。
それに、もっとこう、近くで声を感じた」

「近くで、ねぇ」

龍星はくまなくあたりを見回すが、車輪の痕跡などは見つからなかった。

ただ、秋の草が多い茂っているだけである。
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