【短編】恋は月夜に舞い降りる【砂糖菓子より甘い恋-
くすり、と、あの方が笑われました。

初めて耳にする笑い声に、私の心臓はどきんと跳ねます。

「一晩中、ですか?

私は一向に構いませんよ」

冗談だと思いました。

でも……

あの方は、まるで子守唄でも歌ってくださるかのように、素敵な笛の音をずっと私に聞かせてくださったのです。

それは、官能的なまでに美しく。

情熱的に、強く。

時に、ひたすらに優しく。

感情なんて知らなかったはずの、私の、どこか柔らかいところをぎゅぎゅっと掴み、撫で、舐めていくかのようでした。

たった笛一本なのに。

まるで、素敵な管弦楽を聞いているかのような。

それはそれは、幻想的で、魅惑的な調べ。

聞き手は私しか居ないと、きっとご存知のはずなのに。

あの方の奏でる音楽は、どこまでも真剣で、どこまでもひたすらに真っ直ぐで……。
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