28歳のシンデレラ
いつの間にか体中の毒素が抜かれていて、わたしは泣きやんでいた。
それでも彼は何も言わず、にこにこ微笑んでわたしの側に居てくれた。
体はガチガチに凍てついていて、指先は感覚を失っていた。
しばらく沈黙があって、先に口を開いたのは彼だった。
「お姉さん、ぼく、腹減ったよ。もうぺこぺこ」
荒れ狂う冬の海というシチュエーションには、あまりにもミスマッチ過ぎる一言だった。
気が緩んで、わたしはつい笑ってしまった。
この子に会ってから、調子が狂いっぱなしだ。
「ご飯、食べに行こうか。ご馳走させて」
「やった!でも、その前に約束して」
「何を」
「もう、身投げはしない?」
まるで捨て犬のような潤んだ瞳で、彼は言った。
「……しないわ」
「良かった」
少し気持ちが安定し始めていて、わたしはさっきまでの自分が馬鹿馬鹿しくてならなかった。
もう、馬鹿な事は考えない。
あれは、ちょっとした癇癪だったんだわ。
星が瞬く夜空の下、防波堤沿いを二人並んで歩きながら、わたしが訊いた。
「きみ、名前は」
「知りたいなら、もう一つ約束して」
「何?」
「生きることを諦めないって、約束して」
「……するわ」
「ジュン。渡瀬隼。結構、ハヤト、って読み間違えられるんだ。でも、ジュン」
「隼、ね」
防波堤沿いには十メートル間隔で街灯が立っていた。
防波堤沿いの道には二つの影がのびていて、波音に耳を澄ませていた。
それでも彼は何も言わず、にこにこ微笑んでわたしの側に居てくれた。
体はガチガチに凍てついていて、指先は感覚を失っていた。
しばらく沈黙があって、先に口を開いたのは彼だった。
「お姉さん、ぼく、腹減ったよ。もうぺこぺこ」
荒れ狂う冬の海というシチュエーションには、あまりにもミスマッチ過ぎる一言だった。
気が緩んで、わたしはつい笑ってしまった。
この子に会ってから、調子が狂いっぱなしだ。
「ご飯、食べに行こうか。ご馳走させて」
「やった!でも、その前に約束して」
「何を」
「もう、身投げはしない?」
まるで捨て犬のような潤んだ瞳で、彼は言った。
「……しないわ」
「良かった」
少し気持ちが安定し始めていて、わたしはさっきまでの自分が馬鹿馬鹿しくてならなかった。
もう、馬鹿な事は考えない。
あれは、ちょっとした癇癪だったんだわ。
星が瞬く夜空の下、防波堤沿いを二人並んで歩きながら、わたしが訊いた。
「きみ、名前は」
「知りたいなら、もう一つ約束して」
「何?」
「生きることを諦めないって、約束して」
「……するわ」
「ジュン。渡瀬隼。結構、ハヤト、って読み間違えられるんだ。でも、ジュン」
「隼、ね」
防波堤沿いには十メートル間隔で街灯が立っていた。
防波堤沿いの道には二つの影がのびていて、波音に耳を澄ませていた。