28歳のシンデレラ
素通りして来たレストラン達はどこもかしこもごみごみしていたのに、ここ、はお客もまばらで照明も控えめな落ち着いた雰囲気だ。

ぼんやりとした柔らかい照明に、カウンターや棚には天使の置物がたくさん並んでいた。

店内にはオルゴール調の、ラストクリスマス、がしっとりと流れていた。

「ぼくは窓辺がいいな」

隼が言った。

「そうね。そこにしましょう」

ステンドグラスの窓辺の席に座って、隼はメニューを見てすぐに言った。

「スパゲッティナポリタンと、レモングラスのコーラ」

「じゃあ、わたしも同じ物にしようかな」

スウェード生地のトレンチコートを脱ぎながらわたしが言うと、隼はにこにこ微笑んだ。

「かわいい」

「え?」

「ぼくはエスパーかもしれない。予想が的中したんだ。そのコートの下は、ピンク色のワンピースじゃないかって思っていたんだ」

「十七歳で、すごく、ませているのね」

シュワシュワ細かく弾ける焦茶色の飲み物からは、柑橘系の爽やかな香りがした。

それ、を一口喉から流し込むと、体内が浄化されていくような気分になった。

「真央さんはどんな仕事をしているの」

「しがないOLよ。コピーをとったり、お茶を入れたり。同僚とは上司の悪口ばかり言っているわ」

ふふ、とわたしが笑うと、隼は微笑みながら楽しそうに、うんうん、と頷いていた。

勿体無い、そう思った。

< 13 / 41 >

この作品をシェア

pagetop