28歳のシンデレラ
こんなしがないOLの愚痴を聞いて、何が楽しいのかわたしには分からない。

今のわたしには、隼の透明な笑顔は眩し過ぎるのだ。

隼が笑うたびに左耳のピアスがしゃらしゃら揺れて、ますます眩しい。

その都度、わたしは瞬きを繰り返した。

「真央さんは綺麗なまつ毛をしているんだね」

「あら、隼の方が綺麗だわ。とてもミステリアスな目をしているのね」

「男に綺麗だなんて普通言わないよ。真央さんは変なお姉さんだなあ」

そう言って、隼は焦茶色のレモングラスの香りがする、炭酸水を飲み干した。

コーラ、という飲み物は、わたしにはとても新鮮だった。

二十歳を過ぎた頃からジュースを口にする事は滅多になくなった。

飲むとすれば、決まって、エスプレッソ珈琲か、緑茶だ。

わたしの喉を潤した炭酸水は、思いの外甘く、それでいて爽やかな後味だった。

アンティークチックな喫茶店を出て、わたし達はまた手を繋いだ。

良いものを見よう、と隼が言ったのでわたしはついていった。

「これ。やっぱりクリスマスイヴに、これ、は必須条件だよね」

わたし達が並んで立ったのは、大きなクリスマスツリーの真下だった。

ぽつりぽつりと点滅しているイルミネーションは、夜の大通りを幻想的に映し出していた。


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