28歳のシンデレラ
クリスマスツリーのあちらこちらには、黄金色のスターや天使のマスコットが飾られていた。

時折吹く雪風に打たれて天使が動くと、それはまさに空を飛んでいるように見えた。

隼はわたしの左横に立ち手を繋いでいたのに、急に右側に移動し、わたし達はまた手を繋いだ。

「どうしたの」

わたしが訊くと、隼は少し躊躇しながら笑って言った。

「手が痛いんだ。真央さんの薬指の、それ、がぼくを苛立たせる」

わたしは左手の薬指にある、それ、を見て心を痛めた。

それ、は婚約指輪だ。

勿論、亘から貰った物の中で一番高価な物だった。

「真央さんは、結婚しているの」

クリスマスツリーのてっぺんにあるスターの飾りを見つめながら、隼が訊いた。

「いいえ、していないわ。婚約していたのよ」

「していた?」

「ええ。それも、さっき、破談になったわ」

わたしが蚊の鳴くような声でようやく答えると、隼はわたしの手をもっと強く繋いだ。

「力が強すぎる。ちょっとだけ痛いわ」

「辛いね。でも、真央さんを大切に想っている人が、周りにはたくさん居るよ」

「居ないわ」

「居るさ。ぼくもだよ」

自慢ではないけれど、そんな事を言われたのは生まれて初めてのことで、わたしは戸惑った。

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