28歳のシンデレラ
「そうね。また、何処かで会えたらね」

わたしは下を見ながら答えた。

「悲しい返事だなあ」

「連絡先を教えたいけれど、わたし、携帯電話を捨ててしまったの。ごめんなさいね」

「そう。じゃあ、明日、このツリーの下で。夕方の六時に。どう?」

「考えておくわ」

「じゃあ、明日。ぼくは待ってる」

「わたし、来るか分からないわよ」

わたしが突っぱねると、隼はクスクス笑った。

「いや、真央さんは必ず来るね」

「どうして、言い切れるの」

「ぼくはテレパスだからさ。真央さんは、今、明日もぼくに会いたいと思ってる」

「ずいぶん、自信過剰なのね」

うつ向いたままわたしが突っぱねると、隼は得意気に鼻先でふふんと笑った。

「ぼくには分かる気がするんだ。真央さんが泣いている時や、笑っている時。落ち込んでいる時もね。だって、テレパスだからね」

それじゃあ、明日、夕方六時に、と隼は言ってわたしの手をほどいた。

その瞬間、わたしの右手がつめたくなった。

クリスマスツリーの真下を素早く飛び出して、人混みをくねくね器用に避けながら、隼は駆けて行った。

わたしはしばらくの間クリスマスツリーの真下に立ち尽くし、空っ風に打たれていた。

走り去る途中に隼は一度だけ振り返り、わたしに手を振っていた。

その笑顔が、オーランド・ブルーム、に少しだけ似ていて、わたしはほんの少しだけどきどきしていた。




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