28歳のシンデレラ
Cinderella:3
二十一時近くになり、駅前からはポツポツと、一つずつ明かりが消え始めていた。
その頃には人通りもまばらになっていて、雪がやんでいた。
澄み切った冬の空気の中、丸く太った三日月が鮮明に優しい色の光を放っていた。
最低なクリスマスイヴも、あと三時間と少しで終わる。
帰ろうとして歩き出した時、背後から声をかけられてわたしは振り返った。
でも、振り返らなければ良かった。
「真央……何をしてるんだよ」
そう言って、ひどく都合の悪そうな面持ちで突っ立っていたのは、今、最も会いたくなかった亘だった。
隣に居ると思っていた環奈の姿は無かった。
「それは、こっちの台詞だわ。よく、わたしに声を掛けてこれたわね」
しばらく重っ苦しい沈黙が続いたあと、亘が重い口調で言った。
彼はこんな時間でも爽やかで、グレーのスーツもくたびれていなくて、とても良く似合っていた。
「おれの話を聞いてくれないか」
「今さら、話してもどうにもならないでしょうに」
わたしが声を荒げると、亘は爽やかな顔立ちをぐしゃぐしゃに崩して、茶髪の頭を掻いた。
その時、わたしは見なくてもいいものを見てしまったのだ。
亘は左手で、頭を掻いていた。
彼は左利きだ。
その頃には人通りもまばらになっていて、雪がやんでいた。
澄み切った冬の空気の中、丸く太った三日月が鮮明に優しい色の光を放っていた。
最低なクリスマスイヴも、あと三時間と少しで終わる。
帰ろうとして歩き出した時、背後から声をかけられてわたしは振り返った。
でも、振り返らなければ良かった。
「真央……何をしてるんだよ」
そう言って、ひどく都合の悪そうな面持ちで突っ立っていたのは、今、最も会いたくなかった亘だった。
隣に居ると思っていた環奈の姿は無かった。
「それは、こっちの台詞だわ。よく、わたしに声を掛けてこれたわね」
しばらく重っ苦しい沈黙が続いたあと、亘が重い口調で言った。
彼はこんな時間でも爽やかで、グレーのスーツもくたびれていなくて、とても良く似合っていた。
「おれの話を聞いてくれないか」
「今さら、話してもどうにもならないでしょうに」
わたしが声を荒げると、亘は爽やかな顔立ちをぐしゃぐしゃに崩して、茶髪の頭を掻いた。
その時、わたしは見なくてもいいものを見てしまったのだ。
亘は左手で、頭を掻いていた。
彼は左利きだ。