28歳のシンデレラ
その薬指には、もう、あれの姿は無かった。
泣くつもりなどこれっぽっちもなかったのに、わたしは泣いていた。
「すまない。真央、すまない」
「謝るなんてずるいわ。卑怯よ」
「すまない。でも、おれは環奈と結婚するよ」
もう一度、すまない、と亘は言った。
わたしは何も答えず、頷く事すらせず、そこに立ち尽くして泣き続けた。
真央、とわたしの名前を甘い声で囁き、亘はわたしを抱き締めた。
ブルガリプールオム。
亘の匂いが、わたしは大好きだった。
「亘。わたしはあなたと環奈が憎たらしくて、仕方ないわ」
「憎んでくれて構わない。許してくれとも、言わない」
「離して!ずるいわ!こんなふうになっても、わたしを抱き締めるのね。酷い男ね」
わたしはいつになく興奮していて、亘の分厚い胸板を思いっきり突き飛ばした。
そして、ふらつきながら後退する亘に、ルイヴィトンのバッグを叩き付けた。
「返すわ。こんな物、もう要らないもの」
道行く人達が面白い可笑しい眼差しで、わたしと亘の喜劇を鑑賞していた。
泣き続けるわたしの右横を、森林のような清らかな香りが通り過ぎた。
その人を見て、わたしは目を丸くした。
「返すなんて勿体無いよ。これ、は手切れ金変わりだよ」
亘の足元に粗末に転がったそれを拾い上げ、わたしの手に持たせたのは、立ち去ったはずの隼だった。
亘は口をあんぐり開けて、隼を物珍しそうに見つめていた。
泣くつもりなどこれっぽっちもなかったのに、わたしは泣いていた。
「すまない。真央、すまない」
「謝るなんてずるいわ。卑怯よ」
「すまない。でも、おれは環奈と結婚するよ」
もう一度、すまない、と亘は言った。
わたしは何も答えず、頷く事すらせず、そこに立ち尽くして泣き続けた。
真央、とわたしの名前を甘い声で囁き、亘はわたしを抱き締めた。
ブルガリプールオム。
亘の匂いが、わたしは大好きだった。
「亘。わたしはあなたと環奈が憎たらしくて、仕方ないわ」
「憎んでくれて構わない。許してくれとも、言わない」
「離して!ずるいわ!こんなふうになっても、わたしを抱き締めるのね。酷い男ね」
わたしはいつになく興奮していて、亘の分厚い胸板を思いっきり突き飛ばした。
そして、ふらつきながら後退する亘に、ルイヴィトンのバッグを叩き付けた。
「返すわ。こんな物、もう要らないもの」
道行く人達が面白い可笑しい眼差しで、わたしと亘の喜劇を鑑賞していた。
泣き続けるわたしの右横を、森林のような清らかな香りが通り過ぎた。
その人を見て、わたしは目を丸くした。
「返すなんて勿体無いよ。これ、は手切れ金変わりだよ」
亘の足元に粗末に転がったそれを拾い上げ、わたしの手に持たせたのは、立ち去ったはずの隼だった。
亘は口をあんぐり開けて、隼を物珍しそうに見つめていた。