28歳のシンデレラ
婚約者がいるくせに。

まして、その婚約者の親友に手を出して妊娠させ、婚約者を捨てるはめになったくせに。

「真央さんの、元、婚約者は面白い人なんだね」

「そうみたいね。わたしも、たった今、知ったわ」

わたしと隼はひそひそ話をして、お互いの目を合わせてげらげらと豪快に笑った。

亘はクリスマスツリーの真下に立ち、ひどく不快な面持ちでわたしに罵声を浴びせた。

「きみも堕ちたものだね!その年下の男に、きみを守れるわけがない」

そんな失礼極まりない事を言われたというのにも関わらず、隼はとても楽しそうにケタケタと笑い続けた。

わたしは鼻先で、ふふんと笑い声を漏らした。

わたしは幻に恋をしていたのかもしれない。

用意周到で王子様に見えていた亘が、ただの情けない男に見えて仕方なかった。

駅前に建ち並ぶファッションビルやレストランから明かりが消え、魔法が溶けてしまったのだ。

お城の舞踏会で綺麗なドレスを身にまとい、王子様に恋をしていたシンデレラ。

彼女がある時刻を境に、貧しい女の子に戻った瞬間のように。

わたしは悪い魔法から、ようやく解き放たれたのだろう。

非常に清々しい気分だった。

「亘、あなたも堕ちたものだわね。わたし、急に冷めてしまったわ」

ミステリアスな瞳を見つめながらわたしがフフフと笑うと、隼もクスクス笑った。



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