28歳のシンデレラ
「やっぱり、真央さんの連絡先を訊いておくべきかと思ったんだ」

少しだけ寂しそうに微笑んだ横顔が、やっぱり、オーランド・ブルームに似ていた。

公園には三本街灯があって、焦茶色のベンチが優しい明かりに浮き彫りにされていた。

「明日の夕方、六時に会った時にでも良かったじゃないの」

「でも、真央さんは来ないかもしれないでしょ」

「いいえ、行くつもりだったわ」

必ず、行こうとわたしは思っていたのだ。

あの瞬間、そう決めたのだった。

アンティークチックな喫茶店を出て、クリスマスツリーを見たあと、隼が帰る時。

繋いでいた手をほどいた瞬間、だ。

もう少しだけ、隼と手を繋いでいたい、とわたしは思ったのだ。

「そう。でも、とても申し訳ないんだけれど、明日の約束を延期してもらえないかな」

本当に申し訳なさそうに、隼が言った。

「いいわよ。いつに延期」

「まだ分からない。早ければ、一年後。もっと遅くなるかもしれない。でも、できる限り、急ぐから」

「どういう事か、もう少しだけ詳しく言ってくれないかしら」

しばらく黙りこくったあと、ゆっくりした口調で隼が言った。

「ぼくは、明後日、日本を離れる。でも、さっき父さんから連絡があって。急遽、明日発つことになった」

「どこに行くの」

「イタリア。ミラノへ行くのさ」

わたしは、言葉を失った。

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