28歳のシンデレラ
隼は長い腕を上に伸ばし、夜空を仰いだ。
「霧の街なんだってさ」
「霧の?」
「そう。一年中、湿度が高い街なんだって」
そう言って、隼は夜空に向かって白い息を吹き掛けた。
「ぼくの父さんは貿易事業をしていて、社長なんだ。ぼくは一人息子だから、後継ぎってわけ。仕方のないことさ」
わたしには、隼の顔を見る勇気が無かった。
喉につっかえていた言葉は、しばらくしてからようやく飛び出した。
「そう」
その一言を言うのに、わたしはかなりの時間を要した。
泣きそうになって下を向いていると、隼はわたしのあごを持ち上げた。
「泣かないで」
「泣いていないわ」
エメラルドグリーン色の切れ長の目が、わたしの心臓を射抜いた。
どきどきした。
「真央さんは、信じてはくれないだろうね」
「何を」
「ぼくは、今日のたった数時間で、真央さんを好きになったかもしれないんだ」
笑わないで、と隼が言った。
「笑わないわ。それに、信じるわ。もしかしたら、わたしも同じかもしれないの」
「真央さんは、運命の赤い糸、を信じる?」
にっこり微笑んで、隼が訊いた。
わたしは眉間に皺を寄せて、首を振った。
「分からないわ」
「どうして」
「もう、そんな夢を見れるような歳じゃないわ。半信半疑よ」
そう言って、わたしは目を反らした。
「霧の街なんだってさ」
「霧の?」
「そう。一年中、湿度が高い街なんだって」
そう言って、隼は夜空に向かって白い息を吹き掛けた。
「ぼくの父さんは貿易事業をしていて、社長なんだ。ぼくは一人息子だから、後継ぎってわけ。仕方のないことさ」
わたしには、隼の顔を見る勇気が無かった。
喉につっかえていた言葉は、しばらくしてからようやく飛び出した。
「そう」
その一言を言うのに、わたしはかなりの時間を要した。
泣きそうになって下を向いていると、隼はわたしのあごを持ち上げた。
「泣かないで」
「泣いていないわ」
エメラルドグリーン色の切れ長の目が、わたしの心臓を射抜いた。
どきどきした。
「真央さんは、信じてはくれないだろうね」
「何を」
「ぼくは、今日のたった数時間で、真央さんを好きになったかもしれないんだ」
笑わないで、と隼が言った。
「笑わないわ。それに、信じるわ。もしかしたら、わたしも同じかもしれないの」
「真央さんは、運命の赤い糸、を信じる?」
にっこり微笑んで、隼が訊いた。
わたしは眉間に皺を寄せて、首を振った。
「分からないわ」
「どうして」
「もう、そんな夢を見れるような歳じゃないわ。半信半疑よ」
そう言って、わたしは目を反らした。