28歳のシンデレラ
隼は長い腕を上に伸ばし、夜空を仰いだ。

「霧の街なんだってさ」

「霧の?」

「そう。一年中、湿度が高い街なんだって」

そう言って、隼は夜空に向かって白い息を吹き掛けた。

「ぼくの父さんは貿易事業をしていて、社長なんだ。ぼくは一人息子だから、後継ぎってわけ。仕方のないことさ」

わたしには、隼の顔を見る勇気が無かった。

喉につっかえていた言葉は、しばらくしてからようやく飛び出した。

「そう」

その一言を言うのに、わたしはかなりの時間を要した。

泣きそうになって下を向いていると、隼はわたしのあごを持ち上げた。

「泣かないで」

「泣いていないわ」

エメラルドグリーン色の切れ長の目が、わたしの心臓を射抜いた。

どきどきした。

「真央さんは、信じてはくれないだろうね」

「何を」

「ぼくは、今日のたった数時間で、真央さんを好きになったかもしれないんだ」

笑わないで、と隼が言った。

「笑わないわ。それに、信じるわ。もしかしたら、わたしも同じかもしれないの」

「真央さんは、運命の赤い糸、を信じる?」

にっこり微笑んで、隼が訊いた。

わたしは眉間に皺を寄せて、首を振った。

「分からないわ」

「どうして」

「もう、そんな夢を見れるような歳じゃないわ。半信半疑よ」

そう言って、わたしは目を反らした。

< 27 / 41 >

この作品をシェア

pagetop