28歳のシンデレラ
十八、十九の頃とは、全く変わってしまった。

仕事が終われば、何処に寄り道をするわけでもなく、ただ真っ直ぐ家に帰る。

疲れるのだ、とても。

化粧乗りも悪くなった。

「若い女の子を見ると羨ましくなって、思わず振り返ってしまうのよ。可笑しいものでしょう。女って」

「二十八か。歳をとっても、美人は美人なんだね。すごく、どきどきする」

そう言った隼は、少し大人びた静かな口調だった。

そして、わたしの腰に長い手を回して、ひょんなことを言った。

「恋の蛍、という言葉の意味を知ってるかい」

「いいえ、知らないわ。初めて聴いたわ」

どんな意味があるのかしら、わたしが言うと、

「ぼくは三年間、恋の蛍だったさ」

と隼は言い、わたしの腰に回していた長い腕を離した。

「三年間、何をしていたの」

隼が訊いた。

わたしは一つ、ふふと笑ってから答えた。

「重い病にかかっていたの。不治の病よ。恋煩い、というらしいのよ」

「ああ、それなら、ぼくも同じさ。病院を受診しても、薬ひとつ処方してもらえなくてね」

惚れた病に薬なし、そう言って隼はクスクス笑った。

駅前を吹き抜ける風はつめたいのに、わたしの体は蛍火のように、淡い熱さで包まれていた。

わたしと隼はクリスマスツリーを見上げながら、並んでクスクス笑い続けた。

先に話を切り出したのは純日本製の、オーランド・ブルーム。

「ミラノに越してすぐ十八になって、もう、ぼくは二十一になろうとしてる」

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