28歳のシンデレラ
「そうね。当たり前だわ。あれから三年も経ったんだもの。わたしは二十八。来年は二十九よ」

クリスマスツリーを隔てた向こうのCDショップから聴こえていた、カノン、が流れ終わった。

でも、間も無く、また、カノンが流れ始めた。

今度はオルゴール調ではなく、ヴァイオリン調の伸びやかな音色だ。

わたし達は正面を向いたまま、話を続けた。

「今、付き合ってる人はいるの」

隼の声は三年間前より、低くなった。

「さあ、どうかしら。当ててみて」

「意地悪な人だ」

「いないわ」

「どうして?」

「よく分からないわ」

「ぼくを待っていてくれた。違う?期待してもいいのかな」

少し間を置いて、わたしは答えた。

「待っていたのかもしれないわ」

「そう。三年も待たせて、ごめんね。やっと、迎えに来る事ができた」

「何?」

隼はパリッとした皺のないスーツの胸ポケットから、それ、を取り出した。

わたしは、それ、から目が離せなかった。

「ぼくはもう子供じゃない。成人して、来月には一つ歳をとって、二十一だ」

真央さんと同じ二十代になった、そう言って、彼はわたしの左手の薬指に、それをはめた。

ホワイトシルバーにダイヤモンドが輝くリング、を。

「隼、これは?」

「三年前、約束をしたはずだよ。忘れたの」

「まさか。忘れるはずがないわ」

わたしは、あの日の言葉を信じて、今日まで待ち続けていたのだから。

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