28歳のシンデレラ
「結婚しよう」

「冗談はやめてちょうだい」

「冗談なんかじゃないさ。本気だ。結婚しよう。それを伝えたくて三年間もどかしくてたまらなかった」

と隼は言い、目を潤ませた。

わたしは泣きやむことができなかった。

同時に、返事をすることも。

ひっきりなしに声をしゃくりあげた。

エメラルドグリーンの瞳が、わたしを射抜いていた。

「ぼくはもう、二十歳前の子供じゃないよ。好きな人を守れるくらいに、成長した」

「そんなの、分からないわ。だって、まだ、二十じゃないの」

「真央さんは昔堅気な人なんだね。それじゃあ、ぼくはプロポーズを撤回すべきなのかな」

「それは嫌だわ」

わたしが言うと、隼はとても可笑しそうに、クスクス声を漏らして笑った。

スーツが似合う男に、隼は成長していた。

「なら、真央さんはぼくと結婚すべきだ」

「偉そうね。年下のくせに、生意気だわ」

「男は生意気にしていたい生き物なのさ」

そう言って、隼はわたしの左手を優しい力で握った。

「結婚してください」

「こんなおばさんでいいと言ってくれるなら、喜んで」

「良かった」

そう言って、隼はわたしに三年越しの口付けをした。

「真央さんを、ぼくはずっと好きだった。勿論、これからも」

「わたしだって同じよ」

「ずっと、だよ。今までずっと。これからもね」

雪が降り始めていた。

とても繊細で細かくて、まばらに落ちてきたのは、細雪だった。

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