28歳のシンデレラ
どす黒い色をした重い空からは、雪の粒が落ちていた。

海に降る雪は、積もることがない。

荒波に掻き消され、初雪は海の泡になった。

わたしも、海の泡になってやる。

防波堤に満潮時の荒波が、否応なしに打ち上がり飛沫をあげていた。

情けない。

なんてみすぼらしいのだろうか。

わたし一人がこの世から居なくなったところで、世間は何も変わることはないだろうに。

たかが一人の男を奪われ、自ら命を絶とうとしているなんて、馬鹿げている。

でも、消えてやる。

ルイヴィトンのバッグを振り上げ海に投げ棄てようと、わたしは構えた。

この20万円もするバッグは、去年のわたしのバースデーに亘がプレゼントしてくれた物だ。

さようなら、亘。

わたしの自害を一生背負いながら、環奈と生きていくといいわ。

幸せになれるかしら。

せいぜい、お幸せにね。

ついにバッグを投げ棄てようとした時、誰かがわたしの腕に掴みかかった。

わたしは体勢を崩した。

「うわ!勿体無いなあ。お姉さん、クリスマスイヴに身投げなんてするもんじゃないよ」

防波堤にバッグがぼとりと落ちて、わたしは固まった。

びゅうびゅう、潮風がわたしの頬を叩いた。


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