28歳のシンデレラ
「勿体無いなあ」

と彼は言った。

「ああ、バッグのこと?もう要らないもの。勿体無くないわ、こんな物」

足元で乱暴に転がるそれを見ながらわたしが言うと、彼は歯をガチガチ震わせながら笑った。

「いや、バッグじゃなくて。お姉さんがだよ」

「わたし?」

「そう。勿体無いなあ、美人なのに。こんな汚い海の泡になってしまうなんて。勿体無いよ」

くだらない、と思った。

くだらなすぎて、わたしはクスクス笑った。

美人だ、なんて生まれて初めて言われたのだから。

環奈のようにまんまるの目をしているわけではないし、何処にでも居るようなごく普通の二十五歳のOLなのだ。

環奈のようにお姫様のような髪型ではなく、黒髪でストレートで、いまいちパッとしない。

「あ、笑った。美人が笑うと、どきどきする」

「やめてよ。美人だなんて、心にも無いこと言わないでちょうだい」

「心にあるから、言ったのに」

無愛想に不機嫌な口調で言って、でも、彼は柔らかく微笑んだ。

十七歳くらいだろうか。

黒の学ランをだらしなく着こなしていて、とてもハンサムな子だ。


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