28歳のシンデレラ
「お世辞がうまいのね、ありがとう。気持ちは頂いておくわ」

わたしがクスクス笑うと、子供扱いしないでよ、と彼は言い、ムッとした顔でわたしを見つめた。

ミステリアスな、深い色の目をしていた。

カラーコンタクトレンズをしているのだろう。

エメラルドグリーンのような、深い深い色だ。

「何で身投げなんてしようとしていたの」

「大人にはいろいろとあるのよ。事情がね」

「ふーん。じゃあ、お姉さんは強い美人だね」

「強い?身投げをするような大人が、強いわけないじゃない」

とわたしが言うと、ややあって、彼が言った。

「死のうと思ったのは、お姉さんが強い証拠だよ」

「それは、間違ってると思うわ」

「そうかな。だって、死ぬ勇気があるってことは、生きる勇気があるってことだよ」

「意味が分からないわ」

「死ぬ勇気があるなら、この先もずっと生きて行けるさ。何でも乗り越えられるよ」

お姉さんは強いな、そう彼が言った時、わたしの心は急に軽くなって、螺が外れてイカれた機械のように泣いた。

わたしが泣きやむまで彼は何も言わず、わたしの横顔を深い色の目で、じっと見つめ続けていた。



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