パラノイア境界線
「君、大丈夫?もう終電出るよ?」
ふっと顔をあげると、白い顔の黒い髪をした若い男が心配そうにあたしの顔を覗きこんでいた。
早くどっかいけ。
あっちいけ。
心の中で何度も唱えながら目をそらし、黙り込む。
そうしていると、すぐに呆れてどこかへいくだろうと思っていたのにこの男はしつこかった。
「気分悪いの?病院連れていこうか?」
「随分顔色悪いね。でも、ずっとこのままだと変なヤツに声かけられるよ」
「……もしかして喋れないの?」
うるさい。うるさい。
「今もまさに変なヤツに声かけられちゃってるんですが」
あたしが睨みあげて悪態つくと男はびっくりしたように目を見開いて、
「あ、なんだ喋れるんだ」
そう言って笑った。