パラノイア境界線


男の厚い手がソッと静かにあたしの背中に伸びてくるのを、あたしは噛みつくように振り払った。

「触んな!」

迷惑そうにこちらを見ているサラリーマンが、咳ばらいをした。
男は申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。


苛々する。
なんで、なんで、


気がつけば嗚咽を漏らすあたしの背中を温かな手が優しく撫でてくれていた。

その懐かしい温度にあたしは余計に涙が溢れてくるのだった。


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